島根県

温泉津温泉(大田市温泉津町温泉津)

町並み歩きグループ「いらかぐみ」のメンバーが年に一度顔を合わすオフ会が、2014年は温泉津(ゆのつ)温泉で開かれた。今回で12回目となる。温泉津温泉は北前船の寄港地としても栄え、全国の温泉街で唯一、重要伝統的建造物群保存地区にも選定されている。また石見銀山(大森銀山)の関連地区として世界遺産にも指定されているなど、いらかぐみのオフ会会場としてはうってつけといえる。ちょっと贅沢して創業100年の老舗旅館で料理が売りものの「ますや」を選んだ。温泉津温泉へは1998年7月にも行っており、その思い出をたどる訪問ともなった。

温泉津温泉の俯瞰(大田市温泉津町温泉津)2014.06.01     36×51cm
オフ会の宴会は深夜に及んだものの、翌朝早く目が覚めたので朝風呂へ行くと、すでに早朝町歩きを終えた仲間の一人が湯船につかっていた。顔を見るなり「町並みを俯瞰できるポイントがありましたよ」という。温泉津は2度目なので、町並みの様子もよく覚えていたが、まさか高い所から見下ろせる場所があるとは知らなかった。宿の斜め前にある龍御前(たつのごぜん)神社境内の岩山が絶好の俯瞰ポイントで、中央に以前描いた酒蔵の建物があり、温泉街だけでなく港まで見える。嬉しくなって、朝8時からの朝食前に家並みの半分ほどをスケッチしてきた。

薬師湯旧館「震湯カフェ」(大田市温泉津町温泉津)2014.06.01     F6
温泉津温泉街の奥まったところに1300年の歴史があるという「元湯」と、もう一つの公衆浴場「薬師湯」がある。薬師湯は明治5年の浜田地震の時に新たに湧き始めたため震湯(新湯)とも呼ばれ、今は新しい建物になっているが、旧館は大正8年建築の洒落た洋風の建物。温泉津のシンボル的な建物の一つで、今はカフェとして活用されている。温泉津でのスケッチ2枚目に表通りからこの建物を描きたいと思ったが、日差しが強い。日陰が確保できる向かい側の細い路地から描くことで妥協した。

「若林酒造」(大田市温泉津町小浜)2014.06.01     F6
温泉津温泉へは1998年7月にも訪問した。その時は下の絵にあるように、温泉街の入り口にある内藤家という造り酒屋だったお宅をスケッチした。玄関の縄のれんが印象的だったが、今回、前を通ると、玄関の戸は閉まったままで、もう酒造りはやっておられないようだった。その代わりというわけでもないが、温泉街とJR温泉津駅の中間にある小浜地区の造り酒屋・若林酒造を描いた。この酒蔵のお酒を前夜のオフ会の席で飲んだが、なかなかの美酒であった。昼近い時間になってこの場所へ行くと、日陰がまったくない。暑さ覚悟で描き始めたが、しばらくすると向かい側にある信用金庫の建物の影が延びてきた。ちょっとだけ椅子を移動させて日陰へ避難、スケッチを続けた。

1998年7月、ぜひ一度と思っていた大森銀山への宿泊地に選んだのが温泉津温泉。銀山の繁栄とともに歩んだ温泉だけに「歴史的温泉」との名称を贈りたい。町並み全体が古びており、公衆浴場をはじめ、思わず絵にしたくなるような建物も数多かった。宿の仲居さんまで「歴史的」だったのはご愛嬌。しかし結局は造り酒屋の内藤家付近をスケッチ対象に選んだ。
この絵は1998年7月に訪問した時に内藤家を描いたものだが、気に入らずこれまで掲載していなかった。改めてこのページを作り直したのを機に古いスケッチブックから探し出してきた。内藤家はこの地にあった鵜の丸城の初代奉行を務め、その後、庄屋、廻船問屋、造り酒屋などを営んだという。
                                98・07・20   F8









温泉津・内藤家(温泉津町)98・07・20           F8
温泉津温泉の入り口にある内藤家。玄関に掛かっている縄のれんに惹かれて描いた。古い町にスケッチに行って、造り酒屋を描いてしまうことが多いが、この家は赤い石州瓦、大きめの煙出し、虫籠窓、玄関周りの黒漆喰壁、ガス灯風の玄関灯など小道具がそろっていた(上)。
なまこ壁のある内藤家の土蔵の横の路地は、いかにも魅力的だった(下)。
温泉津の路地(温泉津町)98・07・20              F8

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