島根県

鵜鷺(うさぎ)地区(出雲市大社町鵜峠、鷺浦)

出雲大社から島根半島の山を越えて日本海側に出たところに「鵜峠」と「鷺浦」という2つの集落がある。鵜峠は「うとうげ」ではなく「うど」と読み、鷺浦(さぎうら)と合わせて、「鵜鷺(うさぎ)地区」と呼ばれ、昭和26年に大社町になるまでは鵜鷺村であった。小学校などの名前に「鵜鷺」という地名が残っている。今は両方とも小さな漁村だが、かつては北前船の寄港地であり、近くに鉱山があったため銅や石膏の積出港としてとても賑わっていたという。いかにも行きにくい場所だが、この地方独特の石州瓦の赤い屋根がひしめく風景を一度描きたいと長年あこがれていた。鵜鷺地区の町おこしに取り組んでいる鵜鷺げんきな会という団体のホームページがあり、記述の参考にさせていただいた。(このページでは、絵を描いた順に下から掲載しています)

鷺浦の町並み(出雲市大社町鷺浦)2014.05.31     F6
少し歩くと鷺浦にはスケッチしたくなるポイントがまだまだあった。しかし、この夜は温泉津温泉で「いらかぐみ」のオフ会があり、集合時間は5時半。鷺浦から温泉津までは1時間半かかるとのことなので、4時にスケッチを切り上げることにした。あまり時間がないので、大急ぎで一番鷺浦らしい雰囲気の場所を探してもう1枚描いた。左側のお宅は重厚な造りだが、残念ながら空き家になっているようである。過疎の村では仕方がないこととはいえ、胸が痛む。

「塩飽屋」(出雲市大社町鷺浦)2014.05.31     F6
この建物は「塩飽屋」という北前船の船主だった家で、鷺浦の写真で一番よく紹介されている。江戸時代から明治時代にかけて瀬戸内・塩飽諸島の塩を売って財を成したという。2012年8月からギャラリー「しわく屋」として使われ、いろんな商品・作品の展示やミニコンサートを行っている。土日祝だけの営業だそうで、スケッチしている間、路上でギター演奏を無料で聞いたうえ、手焼きせんべいまでいただいた。鷺浦には海岸道路と昔からの目抜き通りの2本の道路の間に梯子状に15本の路地があるそうだが、町並みが海に沿って弓なりに湾曲しているため、どの路地からも鷺浦港の波止場の先端にある灯台を見ることができるという。もちろん塩飽屋の前の路地からも灯台がよく見えた。

鷺浦の俯瞰(出雲市大社町鷺浦)2014.05.31     36×51cm    
鷺浦トンネルを出たところに共同墓地へ上る階段があった。墓地から鷺浦の家並みが見渡せることをあらかじめ調べていたので、さっそくあこがれの風景に挑んだ。土曜日とあって墓参りの人が案外多い。そんな中に、東京に本拠を置いているが、事情があって帰省中という方がおられた。聞けば海岸沿いの自宅を鉄筋コンクリート造に建て替えられたので、町並み保存の立場で言えばちょっと気が引けるとおっしゃっていた。冬は海からの季節風が強く、海岸べりには防風のための竹の垣根「間垣」(鷺浦では「間立て」と呼ぶ)を作っている家が並ぶが、この方のお宅は思い切ってコンクリート造にされたらしい。このホームページのこともお話ししたら、後刻お目にかかった時、「ちゃんとチェックしましたよ」とおっしゃっていた。

鷺浦隧道(トンネル)(出雲市大社町鷺浦)2014.05.31     F6
鵜峠(うど)で蕎麦をごちそうになった後、峠越えの県道で隣の鷺浦へ行った。県道は小さな岬を回って鷺浦へ入るが、その手前で岬をショートカットする短いトンネルがあるのに気が付いた。トンネルの向こうに鷺浦の集落がちらりと見えた。車を止めて改めて行ってみると、石州瓦の赤い屋根が連なる風景をトンネルが額縁のように切り取っていて、とても魅力的である。何よりもこれほど涼しい場所はない。車が来たらどうしようと冷や冷やしたが、結局、スケッチ中に車は1台も通らなかった。鷺浦集落の中央を1本の道路が貫いていて、その道路の延長線上にこのトンネルがある。今は海岸沿いの県道がメーンになっているが、このトンネルの開通は昭和10年だという。鵜峠などへの交通路を確保するため、地元の人が手作業で掘り抜いたらしい。鵜鷺小学校などもこのトンネルを抜けた鵜峠寄りにある。(第9回個展の案内状にこの絵を使いました)

鵜峠(うど)B(出雲市大社町鵜峠)2014.05.31     F6
鵜峠の村を貫いている県道の脇に日陰を見つけ、目の前に見えるちょっと気になる家を描いた。この絵はただそれだけのものだが、座った場所が村のメーンストリートだったため、思わぬ出会いがあった。過疎の町はどこでもひっそりしているが、ここでは行き交う人の数が多く、何となく賑わいが伝わってくる。後で分かったことだが、独居老人に楽しい昼食時間を過ごしてもらおうと、地域の婦人会がボランティアで蕎麦打ちをし、この日初めて、皆さんにふるまっているという。そのために多くの人が私の前を通ったわけだ。近くのお宅がその会場で、私にも「せっかくだから食べていけ」と言われる。「昼食は用意しているので…」とお断りしたが、考えてみたら私も「独居老人」みたいなものなので、厚かましくもごちそうになった。とてもおいしい”出雲蕎麦”だった。

鵜峠(うど)A(出雲市大社町鵜峠)2014.05.31     F6
せっかく日本海に面した漁港に来たのだから、2枚目はそれらしい港の風景を描きたいと思い、日陰を探した。幸い漁協の荷捌き場の建物が小さな日陰を作っていたので、そこへ入り込んだ。弓なりになった浜に沿って家々と舟屋が並び、絵になる風景である。背景の山の緑も手前の水面もたまらないほどの美しさだったが、残念ながら表現能力がついていかなかった。

鵜峠(うど)@(出雲市大社町鵜峠)2014.05.31     F6
今回は出雲大社側からではなく、東側の平田町から島根半島を横切り、海岸線をたどって、まず鵜峠を訪ねた。狭い地形なので車の駐車スペースがなく、いったん村を通り過ぎて鷺浦へ向かう面(おもて)坂という峠道のカーブに車を止めた。とりあえずその場所から村の俯瞰を1枚。

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