奈良県

洞川(どろがわ)温泉(天川村)

天川村にある洞川温泉は大峰山への修験者の登山基地で、標高820mの場所にある。ずいぶん昔に一度泊まりに行ったことがあり、歴史的な温泉街が続いていることを覚えていたが、たまたま見たテレビ番組で素晴らしい俯瞰ポイントがあることを知った。大峰山は今でも「女人禁制」だが、麓の温泉は女人も大歓迎のようなので、Fさんとともに出かけた。

洞川温泉街と大峰山(天川村)    2015.10.08    36×51p
テレビで見た俯瞰ポイントは、面不動鍾乳洞の入り口にあり、モノレールで楽々到着できる。モノレールを降りたところの坂道にそのまま座り、「いいなあ、いいなあ」とつぶやきながらスケッチした。すでに紅葉がかなり進んでいる。雪の深い場所なので瓦屋根はほとんどなく、屋根が赤や紫のトタン葺きのため、周囲の緑に映える。通りかかった人に聞くと、遠くに見えるのが大峰山だという。画面右上隅の場所が有名な「西の覗き」だそうなので、説明を聞きながら「ここですか」と崖らしい線を描き込んでおいた。






「山上川」(天川村洞川温泉)    2015.10.08    F6
面不動鍾乳洞の入り口でスケッチしただけで洞内の見物は割愛し、たいした距離でもないのでモノレールにも乗らず、歩いて山を下りた。ちょうど昼になったが、山を下りたところにこの地方の名物・柿の葉寿司を売る店があり、天気も良いので、温泉街を貫いて流れる山上川の河原で食べた。洞川は「名水の里」でもあるため、この山上川も天然のマスやイワナ、アマゴが棲む清流。両岸に並ぶ家並みと赤い橋の組み合わせが面白いので、昼食後そのまま、川をテーマに2枚目を描いた。

「観音橋」から(奈良県天川村洞川温泉)    2015.10.08    F6
日貿出版社刊の「いきいき水彩画7」(05年)に水彩画家・高崎尚昭氏が洞川温泉で描いた絵が掲載されている。たまたま自宅にその本があったので、出発前に作品を目に焼き付けておいた。3枚目には高崎氏が選ばれた山上川に架かる「観音橋」の上のポイントへ行ってみた。遠くの山の中腹には先ほどスケッチした面不動鍾乳洞の入り口が見える。スケッチ後、ふと橋の下を見ると、魚がたくさん泳いでいる。マップには「マス見ポイント」とあった。

洞川温泉街@(天川村洞川)    2015.10.08    36×51p
4枚目は洞川温泉街そのものを描こうと思い、ポイントを探した。大峰山へ向かう街道に沿って旅館や飲食店、それに「陀羅尼助」など土産物を扱う店が続いている。温泉街の入り口近くで道路が緩やかにカーブしている場所を選んだ。ここも高崎尚昭氏が描かれたポイントである。今夜の宿はすぐ近くで、夕暮れまでにはまだ時間があったが、スケッチの続きは明日に回し、久しぶりの温泉をゆっくり楽しむことにした。

「花屋徳兵衛」(天川村洞川温泉)    2015.10.09    F6
洞川温泉では「花屋徳兵衛」という宿に泊まった。洞川は温泉としての歴史は浅いものの、大峰講の宿場として1200年もの歴史があるが、あまり旅館らしくない名前のこの宿は洞川一の老舗だそうで、何と創業500年だという。もっとも建物は昭和28年に大火があった後に建てられたものでそれほど古くはない。この辺りの情報はいらかぐみ・七ちょめさんの受け売りである。この宿ももともと修験者のためのものだが、サービスがきめ細やかで、料理もおいしく、とてもいい宿だった。24時間入浴可能というのも嬉しい。で、翌朝の朝食前に宿の建物を描いてみた。スケッチの仕上げに入った段階で「朝食の用意ができましたよ」と仲居さんが道路まで呼びに来てくれた。(七ちょめさんの「花屋徳兵衛」宿泊リポートがこちらに)

「かりがね橋」から(天川村洞川温泉)    2015.10.09    36×51cm
洞川温泉へは面不動鍾乳洞入り口辺りからの俯瞰を描くのを主目的に出かけた。ところがもう1カ所、素晴らしい俯瞰ポイントがあるという。温泉街をまたぐ形で「かりがね橋」という吊り橋が架かっており、下から見上げても確かに見晴らしは良さそう。旅館のご主人に「たいして揺れませんよ」と背中を押されて橋への坂道を登った。「これぞ究極の俯瞰スケッチ」と思いながら描いた。家々の屋根が、それぞれに複雑に入り組んでいて個性的というのが印象に残った。
「かりがね橋」上での私のスケッチ姿をFさんが下から撮ってくれていた。かりがね橋は地上からの高さが約50m、長さが120mとか。この日は風もなく、静かにスケッチしている分にはとても快適だった。しかし……。現場まで付き合ってくれたFさんが引き返す時、極めて気持ちの良くない揺れが襲ってきた。2度目は男女2人連れ、3度目はご婦人2人組が橋を渡ってきた時。橋に足を掛けたとたんに不気味な揺れが伝わってくる。しかもこの人たちは行きだけでなく、帰りにも橋を渡る。幸いスケッチ中にやってきたのはこの2組だけだったので助かった。








洞川温泉街A(天川村洞川)    2015.10.09    F6
吊り橋の上で描いた後、洞川温泉街の2枚目を描いた。泊まった旅館より少し山側に入った場所で、道路が緩くカーブしている場所を選んだ。右手前の旅館も創業300年を超える老舗だという。玄関前に修験者の持つ錫杖(しゃくじょう)を模った飾りがあった。多くの旅館や土産物屋の前には清水がこんこんと湧く水飲み場が設けられている。

「花屋徳兵衛」の縁側(天川村洞川温泉)  
 2015.10.09    F3
 
   
 



洞川温泉の旅館は大勢の修験者がいっせいに出発したり到着する時に便利なように、縁側を開け放った構造になっている。最近ではそうした宿も減ったそうだが、宿泊した「花屋徳兵衛」は縁側を宿泊客以外の人にも開放していた。洞川でのスケッチの最後に、その縁側に座って縁側を描いた。天井には大峰詣りの講の提灯がたくさん吊り下げられていた。






ほら貝
2015.10.08   F3

Fさん画




修験者といえばほら貝が欠かせない。スケッチ中にもどこからかほら貝の音が聞こえてきた。Fさんは宿でほら貝を借りて、夜遅くまでかかってスケッチしていた。付き合いきれず先に寝た。

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