奈良県

八釣(明日香村)

八釣(やつり)という集落は明日香村の北部、桜井市との境界近くにある。「いかにも明日香らしい村」として写真などでよく紹介されている。家並みの中に1軒の大和棟造りがあり、風景のポイントとなっている。

   
  八釣の春(明日香村)2020.04.25     F6  
  春景色を描きに明日香へ行った。新型コロナウイルス禍で府県境を越える外出自粛令が出ており、明日香でもあちこちの駐車場はすべて閉鎖されていた。マイカーで移動し現地でスケッチするだけで、誰とも口をきくわけでもないのに、どうもスケッチをするという行為も歓迎されていないようである。明日香の山々は若葉に萌え、まさに春爛漫であった。集落を移動しながら4枚描き、最後に八釣に立ち寄った。  
 
 
八釣から(明日香村)2012.01.13     36×51cm
この日は橿原市の「下八釣」などで道草した後、午後になって明日香村の「八釣」へ行った。集落を見下ろすことができる墓地へ上ると、遠くにラクダ瘤状の二上山から左へ葛城山系、その手前に黒くみえる畝傍山、その左に頂上に桜の木が並ぶ甘樫丘が見える。八釣の集落では最近葺き替えをした茅葺き屋根がよく目立つ。目の前に蝋梅が咲いていたので、つい描き込んだ。蛇足か。

八釣D(明日香村)10.10.22       36×51cm
この日はどんよりとした天候で日差しがないので、逆光となる南向きでも描けるかなと思い、北側から八釣の集落を眺めることにした。スケッチした田んぼの稲刈りは終わっていたが、明日香の稲刈りシーズンは遅く、周辺にはまだ黄色の田んぼも数多く残っていた。

八釣の大和棟(明日香村)10.10.22       F6
八釣の大和棟造りのお宅は、おそらく明日香で一番よく写真の被写体になっているのではないか。家の裏手の路地には時代がかった土塀があり、その上からおあつらえ向きに柿の木が覗いている。秋になったら一度、描きたいと思っていたが、ここにはとてもスケッチしにくい事情がある。裏側のお宅によく吠える犬がいて、しかも放ち飼いになっているのである。実は今回も大いに吠えられたのだが、意を決してスケッチを始めたところ、やがて静かに見逃してくれた。

八釣の路地(明日香村)10.10.22       F6
明日香村八釣の路地で、いつもよく吠える犬の「理解を得た」ので、厚かましくその路地を通り抜けて裏手へ回ってみた。絵になる風景ともいえるが、ここまで他人様の敷地に入り込んでしまうと、いかにも私生活を覗き見している雰囲気。ワンちゃんがかねて厳しく警告を発していたのがよく分かるような気もする。

八釣C(明日香村)07.09.27 31×41cm
前年の同じころ、下の絵を描きに行ったとき、大和棟のお宅の前庭に芙蓉の花が咲いているのを見つけた。気になっていたので立ち寄ってみたら、今年も見事に咲き誇っている。いつもなら家の方に焦点を当てて描くのだが、花とバックの白壁の取り合わせが面白かったので、ついつい柄にもなく芙蓉の花を主役にして描いた。

八釣B(明日香村)06.09.26 36×51cm
彼岸のころがスケッチには最も気分が良い。「稲刈りの遅い明日香にでも」と出かけたが、新しい場所を探す気にもなれず、2月に行ったばかりの八釣へ。油彩を描いておられる先客が1人。「現地で油は大変でしょうね」などと少し話をしながら、色づいた田んぼの畦でのんびりと時間を過ごした。絵に少し色気がほしくて彼岸花の株数を増やしておいた。あとで石舞台の方に回ってみると、今が盛りの彼岸花を追っかけてか、平日にもかかわらず人人人の波だった。

八釣@(明日香村)06.02.11 36×51cm
この日、談山神社への参道の集落から山越えで明日香に入り、初めて八釣へ行った。八釣へ着くと、極めて大勢の人が次から次へ途切れることなく細い道を歩いている。聞けば民放ラジオ局主催の「明日香ウォーク」が開かれているそうで、参加者は翌日の新聞によると2万7600人にも達していたという。ほかにいいアングルの場所がないので、仕方なく人が通る道端でスケッチブックを広げた。ギャラリーの多いところで描いた経験は少なくないが、これだけ多くの人に覗かれたのは初めて。おまけにこのウォークを取材中の新聞記者の取材まで受けた。

八釣A(明日香村)06.02.11 36×51cm
「明日香ウォーク」に参加した人波が通り過ぎてしまうと、八釣の里はいつもの静寂を取り戻した。改めて集落へ入っていくと、魅力的な構図の路地があった。どこからか寺の鐘の音が聞こえる。岡寺だろうか飛鳥寺だろうか。やわらかな冬の午後の日差しが黄色の土壁を浮き上がらせていた。

上の絵を描いたのは2月11日。ひまつぶしさんが4月6日にたまたま同じ場所を通りかかった。左がその時の写真である。やわらかな午後の日差しを受けていた土壁の建物は取り壊されている。「作業が終わったばかりのようで、廃棄物運搬のトラックが止まっていた」そうだ。その間、2カ月足らず。絵が廃棄物にされたようなショックというか、描いておいてよかったというか。






(写真はひまつぶしさん提供、06.04.06撮影)


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