三重県

河崎、本町(伊勢市)

伊勢神宮外宮の鳥居前町を「山田」と呼んでいた。内宮のある「宇治」に対し、お互いに対抗意識を持っていたという。現在では「山田」は地名から消えたが、今でも伊勢市の中心部である。山田地区にはかつては「伊勢の台所」と呼ばれた河崎がある。江戸時代に「おかげ参り」が大流行したとき、食糧を一手に賄い、この町の基礎ができたという。町の真ん中を勢田川が流れ、各地から運ばれた物資が荷揚げされた。伊勢風の独特の民家が軒を連ねている。また、外宮に近い本町には山田の地名を引き継いだ旅館「山田館」がある。

     
   伊勢の宿「山田館」(伊勢市本町)16.06.04      36×51p   
 
2016年のいらかぐみオフ会は伊勢神宮外宮の参道に面した「山田館」という旅館が会場となった。山田館は大正初期の創業で、昭和2年に中央の古い部分を残し、木造3階建ての現在の姿に増築された。当時、山田駅(現・伊勢市駅)と外宮とを結ぶ参道には路面電車が走り、大型旅館がずらりと軒を連ねていたという。太平洋戦争末期には外宮周辺に6度にわたる激しい空襲があったが、いずれもこの建物は戦火を免れた。今、正面から旅館の建物に向かい合うといかにも迫力がある。内部へ入るとかなり老朽化も目立っていたが、それは古い町並みを愛するいらかぐみメンバーの好みである。4代目当主自らが腕を振るったという豪華料理が皆を待っていた。
                     
                         右の写真は、増築が完成し現在の姿になった昭和2年ごろの「山田館」(同旅館のホームページから)

 
 
 
 
     
   勢田川畔の河崎の町並み(伊勢市河崎)16.06.05      F6  
  6月5日朝、「山田館」の庇の屋根を打つ雨の音で目が覚めた。いらかぐみでは宿泊した翌日の早朝に町並み歩きをすることを恒例としているが、今年は宿からほど近い「河崎」の町並みを探索することになっていた。河崎には素晴らしい町並みが残っているが、私の視点はもっぱら雨に濡れずに描くことが出来るポイント探し。朝食後、宿の前で皆さんと別れ、雨の中を河崎へ。下見で見つけた勢田川に架かる北新橋という橋の下へ潜り込んだ。河崎の発展は勢田川の水運によるところが大きいため、「川を主役に描くのも意義がある」と自らを納得させた。川面に映る家並みを描いているうちに、幸いにも雨は止んだ。  
 
 
   
   河崎商人館あたり(伊勢市河崎)16.06.05      F6  
  橋の下で描いているうちに雨が止んだので、古い家並みが続く河崎本通りへ移動した。このポイントも雨対策としてチェックしていた場所で、軒下から描くことができる。河崎の町並みは妻入りの家がギザギザに並び、とても変化があることが特徴だが、この場所は特にそれぞれの建物が不揃い建っている。これらは江戸時代創業の酒問屋「小川商店」の建物で、現在は「伊勢河崎商人館」として公開されている。左手前から壱の蔵、弐の蔵、参の蔵で、いずれも背後は勢田川に面している。道路を挟んで右側の建物が母屋である。伊勢河崎商人館のホームページがこちらに。  
 
 
     
   伊勢河崎郵便局前から(伊勢市河崎)16.06.05     36×51p  
  朝、河崎の町内を一周した結果、伊勢河崎郵便局の前から南向きに見たこのアングルがやはり一番気に入った。雨はもう降りそうにないので、いわば本命のポイントで描くことにした。実はこのポイントは下に掲載しているように02年9月にも描いていて、ボヤ騒ぎで中断させられた曰く付きの場所である。今回14年ぶりのリベンジというわけであった。  
 
 
     
   「榎本商店」あたり(伊勢市河崎)16.06.05     F6  
  河崎での最後の1枚は町並みの南の入り口付近で描いた。この場所には空き地もなく、道路の両側に古い家がずらっと並んでいる。右手前の大きな家は榎本商店という砂糖問屋で、表の格子に掲げてある説明板によると「当主は9代目。広大な敷地に蔵が6棟も残っており、そのうちの1棟は河崎では珍しい煉瓦造り」という。6月11日放送のNHK「ブラタモリ・伊勢編」で、この並びにある薪炭問屋が紹介されていた。このあと二見浦の近くへ足を延ばす心づもりだったが、このスケッチ中にも雨がパラついたこともあり、何だかその気がなくなり、そのまま帰宅することにした。何しろ自宅は遠い。  
 
 
     
   河崎B(伊勢市)02・09・28   F8  
  悠彩会の宿泊スケッチ会が志摩で開かれ、8年ぶりに河崎を訪ねた。町並みにはかなり変化が見られたが、この一角だけは十分に雰囲気を残していた。ところが、一緒に行ったNさんが描いていた家そのものからボヤが出て、この狭い道一杯に消防車がやってくるという極めて珍しい体験をした。大事にならなくて良かったが、スケッチどころではなくなり、続きは写真から。古い町並みにとって、火はとくに怖い。  
 
 
     
   河崎C(伊勢市)02・09・28      F8  
   同じポイントを少し引いたところから見た。伝統的な建物に混じって新しい建物がかなりできている。  
 
 
河崎@(伊勢市)94・08・20     F8
河崎の家々はみな妻入りである。伊勢神宮が平入りのため、これに遠慮して妻入りにしたという(近鉄ホームページより)。板壁には「濡れカラス」と呼ばれ黒い防腐防火塗料が塗られ、黒い町並みである。屋根に「反り」があるもの珍しい。

河崎A(伊勢市)94・08・20     F8
スケッチを初めて5年目。このころ関西経済連合会の呼びかけで伊勢から神戸に至る歴史街道構想がスタートした。そのコースに沿って歴史的町並みをすべて描こうという遠大な計画を立て、とりあえず伊勢へ行ったが、結局、描いたのはこの2枚。その後が続いていない。

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