滋賀県

在原(高島市マキノ町)

滋賀県の最北部、福井県との県境に近い山間部の盆地に萱葺民家が軒を寄せ合う「在原」がある。在原という地名は平安時代の歌人である在原業平がこの地でなくなったためと伝えられ、伝統的建造物群保存地区選定に向けた予備調査が行われたこともある。その後2013(平成25)年6月に、13棟残っていた茅葺き民家のうち7棟が焼失するという痛ましい火災があった。なお、2005(平成17)年1月に高島市が発足、その区域となった。

   
  在原の春@(高島市マキノ町)2019.04.13   F6   
  朝からぽっかりと時間が空き、天気は最高なのでちょっと遠出することにした。滅多にないチャンスだから、18年ぶりとなる滋賀県・マキノ町の山中の在原を行き先に選んだ。在原は2013年に深刻な火災があり、その後が気になっていた。改めて集落を見回すと、少数の茅葺き民家があちらこちらに残っているという状態で、残っている民家も人が住んでいる気配がしないものが目立つ。とりあえずの1枚目は18年前に最初に描いた一画(↓の絵)だが、手前の家にはトタンカバーが掛かり、しかも空家のようである。さらのその手前の家は焼失したようで空き地になっていた。  
 
 
   
  在原の春A(高島市マキノ町)2019.04.13   F6   
 


滋賀の山中にある茅葺きの里・在原に興味を持ったのは、まるでおとぎ話に出てくるような右の1枚の絵がきっかけである。建築家で元京大教授の西山卯三氏が著書「滋賀の民家」(1991年刊、かもがわ出版)に文章とともに掲載されていた。2001年秋に初めて在原を訪問したときに、このアングルを探すため山道へ車を乗り入れたが、木が茂ったりしていて風景に出会うことは出来なかった。
今回、再び在原へ行って目にしたのは上の絵のような厳しい現実である。この家はちょっとしゃれた建物で、三角屋根の洋館部分も茅葺きであったが、今はただ放置され、春の日射しの中に無残な姿をさらしていた。西山氏はこの本の中で、一刻も早く集落全体に保存の手を打つべきだと訴えておられたが、火災と過疎化によりその願いは実現しないままに終わった。




                    
 
 
 
   
  在原の春B(高島市マキノ町)2019.04.13   36×51p  
  前回来たときに、ひまつぶし(増野)さんが田んぼの中から遠景で集落を描かれていたのを思い出し、ツクシが群生しているあぜ道へ出てみた。この一画は火災を免れたようで、氏のホームページに掲載されている絵と比べてみても家並みにはほとんど変化がない。家並みの中に桜が一本。まだツボミ段階だったが、花を咲かせておいた。  
 
 
   
  在原の春C(高島市マキノ町)2019.04.13   F6  
  在原の集落を山から流れてきた細流が貫いている。川沿いなら変化のある構図になると思い再び集落の中へ。近くで畑作業をしていた人に聞くと、2013年の大火では、この川の右側の家から出火し何軒か焼いたあと川の対岸にも延焼したという。川の右側には今でも空き地が広がっていた。スケッチ中、金沢から来たという2人連れのカメラマンと少し話をした。  
 
 
   
  「在原」の春D(高島市マキノ町)2019.04.13   25×41p  
  最後に、車を止めさせてもらった神社入り口の広場から見える茅葺き屋根の家を描いた。完全な形で茅葺きが残っているが、残念ながら人が住んでいる気配がしなかった。いかにも快適な行楽日和のこの日、湖西道路は大渋滞。多分、桜名所の海津大崎へ向かう車も多かったものと思う。このため朝早く家を出たにもかかわらず在原到着は正午になった。このスケッチを終えて在原を出発したのは午後4時だったから、4時間しか滞在しなかったことになる。鉛筆スケッチだけとはいえ4時間で5枚というのは、私にとってはかなりのハイスピードだった。当然雑な絵が多くなってしまった。  
 
 
在原の秋@(マキノ町)01・11・24 F6
2001年秋にスケッチの先輩である藪田さん、柴崎さん(故人)、増野さんと誘い合わせて、この集落を訪問した。朝のうちは濃い霧に包まれていたが、これ以上ないと思われる好天と文字通り盛りの紅葉に嬉しくなった。さて、絵を描こうと思うと車に積んできたはずのスケッチ道具一切が見当たらない。さては積み忘れたか。親切な柴崎さんに紙、鉛筆、絵の具、さらには画板代わりの厚紙まで借りてのスケッチとなった。後日談があるが、思い出すのもいやなので割愛。

在原の秋A(マキノ町)01・11・24 F6
素朴な形で多数の茅葺き民家が残るこの村は、京都の美山町北には劣るものの、いかにも日本の山里の典型との雰囲気がある。しかし、過疎化の波は避けられず、この絵のように取り壊された家も目立つ。豪雪地帯だけに、最後の秋晴れの一日、家々では雪囲いを作るなど冬ごもりの準備が進められていた。

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