奈良県

賀名生(五條市西吉野町)

五條市から十津川村に入る国道168号線は十津川街道とも西熊野街道とも呼ばれる。五條からこの道をしばらく南下したところに、賀名生(あのう)の集落がある。「賀名生梅林」で有名だが、ここに「皇居」という扁額を掲げたお宅(堀家住宅)がある。賀名生という地名は南北朝時代に生まれた由緒あるもので、明治以降、賀名生村が存在したが、1959年(昭和34年)の西吉野村発足に伴い、梅林や学校、郵便局などだけに残る”通称”になっていた。2005年(平成17年)9月、西吉野村は五條市に編入された。

賀名生・春うらら(五條市西吉野町和田)2014.04.09      F6   
この日は気持ちのよさそうな天気だったので、少し遠いが、賀名生まで出かけた。皇居跡とされる堀家の裏山へ上ると、目の下に丹生川が流れ、いかにも春らしい景色が広がっていた。座った場所は、以前、五條高校賀名生分校があった所で、地名は西吉野町賀名生(地名としての賀名生は2011年に復活)だが、丹生川流域の集落は西吉野町和田という。絵の左手に見えるトンネルは幻の鉄道・五新線の予定線で、トンネルの手前に賀名生駅が設置される計画だった。今はバス専用道として使われ賀名生バス停がある。頭の上から桜の花が舞うなかで、極めて気分よくスケッチした。

賀名生梅林(五條市西吉野町北曾木)2014.04.09      36×51cm
賀名生は梅林で知られる。誰が数えたのか知らないが、2万本もの梅が植わっているという。しかし”観梅”が目的ではないので、むしろ梅の花が散るのを待って訪ねた。おかげでどこにでも車が止められる。梅林の中を山の上まで歩けばよいスケッチポイントがあるかも知れないが、最初に車を止め1枚目を描いた場所から、梅林の中に散在する家々がよく見える。ウロウロしてもこれ以上のポイントが見つかる保証はないので、そのままスケッチを始めた。賀名生梅林と呼ばれるが、梅林があるのは西吉野町北曾木という集落である。

賀名生皇居跡(五條市西吉野町賀名生)2014.04.09      F6
賀名生には「賀名生皇居跡」という重要文化財の建物(堀家住宅)がある。事情は複雑なので、詳しくは門前に掲げてある案内看板の写真(→)の文章を読んでいただきたい。以前は門を描いた(↓)が、丹生川に架かる橋の上から建物全体がよく見えるので、スケッチしてみた。重文とはいえ普通に生活しておられる民家なので、スケッチしている行為が何だか覗き見しているようで、申し訳ない気分がした。

滝(五條市西吉野町滝)2014.04.09        25×41p
国道168号線で五條から賀名生へ向かうとき、左側の谷底みたいなところに、甍の波がチラッと見えた。その時は車を止める場所も見当たらず先を急いでいたこともあり、そのまま賀名生へ直行した。しかし「あそこは素晴らしい俯瞰が描けるのではないか」という思いが次第に強くなった。このため賀名生でのスケッチの途中で、その場所までトンネル二つ分を引き返した。駐車場所を探し168号線の歩道から俯瞰スケッチに挑んだ。残念ながら、実際にスケッチし始めると、チラッと見たときほど感動を覚えなかった。帰宅後、地名を確かめると「滝」という集落だった。

賀名生皇居跡(西吉野村=当時)93・05・16          F8
南北朝時代に後村上天皇が吉野から難を逃れ、この家を仮の行在所にされたと伝えられる堀家住宅で、重要文化財に指定されている。絵は門だけだが、中には大きな式台を備えた品のある茅葺民家がある。「皇居」という扁額は幕末に天誅組が立ち寄った時に掲げたと言われる。

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